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東京地方裁判所 平成12年(ワ)9538号 判決 2000年12月13日

原告

株式会社進広社

右代表者代表取締役

岸本暹

原告

株式会社ビジネス・ジャパン

右代表者代表取締役

岸本暹

右両名訴訟代理人弁護士

島田修一

被告

小束健文

右訴訟代理人弁護士

山下俊之

主文

一  被告は、原告株式会社進広社に対し、金一三七万二五五〇円及び平成一二年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告株式会社ビジネス・ジャパンに対し、金二八八万三五〇〇円及び平成一二年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  原告株式会社進広社の被告に対するその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は被告の負担とする。

五  この判決は、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告株式会社進広社に対し、金一四九万九四〇〇円及びこれに対する平成一二年六月一八日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  主文第二項に同じ。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告株式会社進広社に対する請求

(一) 原告株式会社進広社(以下「原告進広社」という。)は、広告代理等を業とする株式会社である。

(二) 岸本暹(以下「岸本」という。)は、被告から、平成一〇年三月ころ、俳優養成学校「ハリウッド・アクターズ・スクール・オブ・ジャパン」(以下「本件学校」という。)の開校・生徒募集についての新聞・雑誌広告の制作・掲載手続の発注を受け、これを請け負った(以下「本件契約一」という。)。

(三) 岸本は、原告進広社の代表取締役である。

(四) 原告進広社は、本件契約一に基づき、次のとおり、被告から発注を受け、広告を制作し、掲載した。

(1) 四月分(以下「本件契約一の四月分債務」という。)

代金七〇万三五〇〇円(消費税込み)として、四月二八日付毎日新聞に広告を制作・掲載した。

(2) 六月分(以下「本件契約一の六月分債務」という。)

代金四九万九八〇〇円(消費税込み)として、雑誌『月刊デ・ビュー』七月号(平成一〇年六月一日発行)に広告を掲載した。

(3) 七月分(以下「本件契約一の七月分債務」という。)

代金四九万九八〇〇円(消費税込み)として、雑誌『月刊デ・ビュー』八月号(平成一〇年七月一日発行)に広告を掲載した。

(4) 八月分(以下「本件契約一の八月分債務」という。)

代金四九万九八〇〇円(消費税込み)として、雑誌『月刊デ・ビュー』九月号(平成一〇年八月一日発行)に広告を掲載した。

(五) 被告は、原告進広社に対し、本件契約一の四月分債務につき、平成一〇年五月二九日に五〇万円、平成一〇年六月一〇日には二〇万三五〇〇円を弁済した。

(六) よって、原告進広社は、被告に対し、本件契約一に基づく請負代金二二〇万二九〇〇円のうち平成一〇年五月二九日に弁済を受けた五〇万円及び平成一〇年六月一〇日に弁済を受けた二〇万三五〇〇円を控除した残額一四九万九四〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年六月一八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  原告株式会社ビジネス・ジャパンに対する請求

(一) 原告株式会社ビジネス・ジャパン(以下「原告ビジネス・ジャパン」という。)は、広告代理等を業とする株式会社である。

(二) 岸本は、被告から、請求原因1(二)と同日、本件学校の開校・生徒募集についての車内広告の制作・掲載手続の発注を受け、これを請け負った(以下「本件契約二」という。)。

(三) 岸本は、原告ビジネス・ジャパンの代表取締役である。

(四) 原告ビジネス・ジャパンは、本件契約二に基づき、次のとおり、広告を制作し、掲載した。

(1) 四月分(以下「本件契約二の四月分債務」という。)

① 平成一〇年四月二八日、代金三一五万五〇〇〇円(消費税別)として、車内吊り広告三〇〇〇枚を制作した。

② 平成一〇年四月二八日ないし同年五月六日のうち八日間(この点、甲八号証には、「平成一〇年四月二八日から同年五月六日」と記載され、九日間であるかのようであるが、八日間であることにつき当事者間に争いはない)、代金七七万八〇〇〇円(消費税別)として、山手線、埼京線、常盤線に車内広告を掲載した。

③ 小計 代金一一四万七六五〇円(消費税五万四六五〇円を含む)。

(2) 五月分(以下「本件契約二の五月分債務」という。)

① 平成一〇年五月一日ないし同年同月六日(六日間)、代金一〇四万円として、東急全線に車内広告を掲載した。

② 代金二一万六〇〇〇円(消費税別)として、ポスター四〇〇〇枚を制作した。

③ 平成一〇年五月二三日ないし同年同月二六日(四日間)、代金七七万八〇〇〇円(消費税別)として、山手線、埼京線、常盤線に車内窓上広告一六四〇枚を掲載した。

④ 平成一〇年五月二三日ないし同年同月三〇日(八日間)、代金一五三万八〇〇〇円(消費税別)として、中央線快速(総武線、青梅線、五日市線、京葉線、武蔵野線を含む)に車内窓上広告二二九〇枚を掲載した。

⑤ 小計 代金三七五万〇六〇〇円(消費税一七万八六〇〇円を含む)。

(3) 六月分(以下「本件契約二の六月分債務」という。)

① 平成一〇年六月九日、代金二三万八〇〇〇円(消費税別)として、ポスター五六〇〇枚を制作した。

② 平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)、代金三一万三〇〇〇円(消費税別)として、京浜東北線、南武線、横浜線(鶴見線、相模原線を含む)に車内広告五六〇〇枚を掲載した。

③ 平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)、代金七七万八〇〇〇円(消費税別)として、山手線、埼京線、常盤線、八高線に車内広告五六〇〇枚を掲載した。

④ 平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)、代金七六万九〇〇〇円(消費税別)として、中央線、総武線、青梅線、京葉線、武蔵野線に車内広告五六〇〇枚を掲載した。

⑤ 小計 二二〇万二九〇〇円(消費税一〇万四九〇〇円を含む)。

(五)(1) 被告は、原告ビジネス・ジャパンに対し、平成一〇年六月一〇日、本件契約二の四月分債務につき、一一四万七六五〇円を弁済した。

(2) 被告は、原告ビジネス・ジャパンに対し、本件契約二の五月分債務につき、平成一〇年七月二日に五七万円、平成一〇年七月一三日に一五〇万円を弁済した。

(3) 被告は、原告ビジネス・ジャパンに対し、本件契約二の五月分債務につき、平成一〇年七月二四日に一〇〇万円を弁済した。

(六) よって、原告ビジネス・ジャパンは、被告に対し、本件契約二に基づく請負代金七一〇万一一五〇円のうち二八八万三五〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成一二年六月一八日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  請求の趣旨に対する認否

1(一)  請求原因1(一)、(三)は、認める。

(二)  同(二)、(四)(1)、(2)は認める。ただし、被告がいかなる立場で発注したかについては争う。注文者は、サンライズツアーシステム株式会社(以下「サンライズツアーシステム」という。)ないし有限会社プロジェクト・イン・ハリウッド(以下、「プロジェクト・イン・ハリウッド」という。)の設立中の会社における発起人としての被告である。

(三)  同1(四)(3)、(4)は、否認する。

(四)  同1(五)は、認める。ただし、弁済の時期は争う。

2(一)  同2(一)、(三)は認める。

(二)  同(二)、(四)(1)、(四)(2)①、②、③は認める。ただし、被告が、いかなる立場で発注したかについては争う。注文者は、サンライズツアーシステムないしプロジェクト・イン・ハリウッドの設立中の会社における発起人としての被告である。

(三)  同2(四)④のうち平成一〇年五月二三日ないし同月二六日の四日間分は認めるが、残りの同月二七日ないし同月三〇日の四日間分は否認する。

(四)  同2(四)(3)は否認する。

(五)  同2(五)(1)は認める。ただし、弁済の時期は争う。

(六)  同2(五)(2)は認める。

(七)  同2(五)(3)は否認する。

三  抗弁―弁済(請求原因1に対して)

1  被告は、原告進広社に対し、平成一〇年六月一〇日、本件契約一の四月分債務(請求原因1(四)(1))につき、七〇万三五〇〇円を弁済した。

2  被告は、原告進広社に対し、平成一〇年七月二四日、本件契約二の六月分債務(請求原因1(四)(2))につき、一二万六八五〇円を支払った。

四  抗弁に対する認否

弁済があったことは認める。ただし、右弁済の充当債権については争う。

理由

一  本件契約一及び二の注文者について

1  岸本と被告の間で、平成一〇年三月ころ、本件契約一及び二が締結されたことは、当事者間に争いがない。

2  右争いのない事実に、甲一号証ないし甲一八号証、乙三号証ないし乙五号証、乙一一号証、乙一二号証及び弁論の全趣旨によれば、次の各事実が認められ、4で述べるほか、これを左右するに足りる証拠はない。

(一)  被告は、平成一〇年三月ころ、平成一〇年七月五日に開校を予定する本件学校の生徒募集の宣伝をするため、原告進広社および原告ビジネス・ジャパンの代表取締役である岸本との間で、本件契約一及び二を締結した。

その際、被告は、いずれ本件学校の運営母体として法人を設立するが、それまでは被告が本件学校の広告制作についての窓口である旨説明した。

そして、被告は、岸本に対し、朝日新聞・読売新聞への広告掲載については、「サンライズツアーシステム」の名称で申請依頼したが、毎日新聞への広告掲載については、「アクターズ・スクール・オブ・ジャパン」という名称で申請依頼した。

(二)  原告両会社は、「サンライズツアーシステム(株)」の項目で帳簿を作成し、サンライズツアーシステム宛に本件契約一及び二に基づく請負代金の請求書を作成・発送したが、被告は、右請求に対する支払いは、被告個人の名義で行った。

(三)  被告は、本件学校の経営母体として、平成一〇年九月二四日、プロジェクト・イン・ハリウッドを設立し、自ら代表取締役に就任して、以後同会社により、本件学校を運営した。

3  これらの事実を総合すると、本件契約一及び二の締結当時から、被告としては、本件学校の経営母体としては、将来設立する予定の法人を想定しており、かかる法人の設立までは、少なくとも本件学校の広告宣伝に関しては、被告が自己の責任で、担当する考えであったものと推認することができ、このことは、被告の個人名義を広告料の支払名義人としたことにつき、別件訴訟(東京地方裁判所平成一〇年(ワ)第二七一九四号請負代金請求事件)において、被告が証人として、「ハリウッド・アクターズ・スクール・オブ・ジャパンというのは、法人登記されていないので、どっちにしても、僕が広告を発注した以上、僕が責任をとって、僕が全部最終的にやるつもりでいましたから」と述べていること(乙一二号証の四五頁)とも整合するところである。

したがって、本件契約一及び二の注文者は、被告であると認定するのが相当である。

4  被告は、本件契約一及び二の注文者が被告であることを争っているので、この点について判断する。

(一)  サンライズツアーシステム

(1) 甲一七号証、甲一八号証、乙一一号証、乙一二号証、弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

被告は、本件学校は、法人登記をしていないことから、本件学校の運営母体として、早坂功が代表取締役であって、当時休眠中であったサンライズツアーシステムを一時的に本件学校の運営母体とすることを計画し、平成一〇年二月二日、サンライズツアーシステムを本件学校の経営母体として適切なように、目的に「芸能人養成所の経営」「海外留学手続きの指導及びホームステイ先の斡旋」「レコード原盤並びにマスターテープの制作販売」などを追加し、本店所在地、役員を変更した。さらに、被告は、岸本に対し、朝日新聞・読売新聞への広告掲載については、サンライズツアーシステムの名称で申請依頼し、同会社の登記簿謄本を提供した。

(2) しかし、乙一一号証によれば、「①サンライズツアーシステムは、当時、休眠状態であったことから、税務署への事業開始報告等をする必要があったこと、②被告らで本件学校を設立・運営するのであるから、既存の会社を利用するのではなく、自分たちで新しい会社を設立して、本件学校を経営したいと考えたこと、③従来、旅行業を主たる業務とするサンライズツアーシステムを本件学校の経営母体とすることは、イメージが悪いと考えたことから、登記事項変更直後の平成一〇年二月の時点で、サンライズツアーシステムを本件学校の経営母体とすることは、断念していた。」として被告自身がサンライズツアーシステムが本件学校の経営母体であったことを否定している。

加えて、被告が前記別件訴訟で証言した部分(乙一二号証)によれば、岸本から、新聞審査協会の審査用に何か会社はないかと尋ねられたため、「サンライズツアーシステムという昔、使おうと思っていた会社がある。」と言って、広告申請名義をサンライズツアーシステムにしたというものであること、甲一一号証によれば、被告は、平成一〇年一月、本件学校の教室兼事務所を賃貸する際には、被告の知人である訴外伊藤賢二の経営する株式会社アーバンシックの名義を借用していた(乙一一号証)こともあること等からすると、サンライズツアーシステムは、新聞審査協会の審査をパスするために名義を借用したにすぎないと推認するのが相当である。

(3) そうすると、本件において、被告が、サンライズツアーシステムの代理人として、原告進広社及び原告ビジネス・ジャパンと本件契約一及び二を締結したと認めることは因難であるということになり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

(二)  プロジェクト・イン・ハリウッド

(1)  甲三号証、乙一一号証、乙一二号証によれば、本件学校の運営母体として、プロジェクト・イン・ハリウッドが平成一〇年九月二四日付で設立され、被告が代表取締役に就任し、以後、同会社によって本件学校を運営していたものの、本件各契約締結当時、プロジェクト・イン・ハリウッドの設立計画は、抽象的な設立計画の段階であって、具体化しておらず、名称も定まっていなかったことが認められる。そうすると、被告が、プロジェクト・イン・ハリウッドの設立中の会社の発起人であったと認めることはできないことになる。

(2) 仮に、被告が、設立中の会社の発起人であったと認められたとしても、商法一六八条一項六号の立法趣旨からすれば、発起人が設立中の会社の機関としてすることができる権限内の行為としては、会社設立自体に必要な行為に限られ、開業準備行為であってもこれをすることはできず、原始定款に記載されその他厳重な法定要件を充たして財産引受のみが例外的に許されるものと解される。そして、本件契約一及び二は、設立後の会社であるプロジェクト・イン・ハリウッドが運営する本件学校の宣伝・広告であり、いわゆる開業準備行為に当たると言うべきであり、本件契約につき、右の法定要件を充たした財産引受があったと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告が発起人として設立中の会社であるプロジェクト・イン・ハリウッドの名において、本件契約一及び二を締結したとしても、その効果が、設立中の会社に帰属し、成立後の会社たるプロジェクト・イン・ハリウッドに当然に帰属するものではないことになる。

二  請負契約の範囲について

1  請求原因1(四)(1)(本件契約一の四月分債務)、同1(四)(2)(本件契約一の六月分債務)、同2(四)(1)(本件契約二の四月分債務)、同2(四)(2)①②③(本件契約二の五月分債務の一部)については、当事者間に争いがない。

2  請求原因1(四)(3)・同1(四)(4)について

(一)  原告進広社の掲載手続に基づき、『月刊デ・ビュー』八月号(平成一〇年七月一日発行)・九月号(平成一〇年八月一日発行)に、本件学校の広告が掲載されたこと、その代金が四九万九八〇〇円であることについては、当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、甲六号証、甲一〇号証、甲一一号証、甲一八号証、乙一〇号証ないし乙一二号証を総合すると、以下の事実が認められる。

(1) 原告進広社は、『月刊デ・ビュー』の媒体との間で、『月刊デ・ビュー』に広告を一二回掲載する代わりに、原告料金の値引きの合意をした。

(2) 原告進広社は、被告の注文により、『月刊デ・ビュー』七月号(平成一〇年六月一日発行)・八月号(平成一〇年七月一日発行)に、本件学校の生徒募集の広告を掲載する手続をした。各号とも、双方の担当者により、原稿の打ち合わせが行われた。

(3) 被告側は、原告進広社に対し、『月刊デ・ビュー』九月号(平成一〇年八月一日発行)の発行前に、同号への広告掲載を中止してほしい旨の連絡をしたが、掲載中止の手続の締切を過ぎていたことから、被告側の担当者と原告進広社の担当者間で原稿の執行の合意がなされた。

(4) 岸本は、被告に対し、七月と八月に何度も支払いについての催促を行ったが、その際、被告は、支払いについての言い訳をすることはあっても、原稿を間違えたとか原稿がどうだったといった話は一度もしなかった。

(三)(1)  右の各事実を総合すると、原告進広社が行った『月刊デ・ビュー』七月号・八月号の掲載手続は、本件契約一による被告の発注に基づくもの、と認められ、同1(四)(3)(本件契約一の七月分)、同1(四)(4)(本件契約一の八月分)の事実が認められる。

(2) これに対し、被告は、『月刊デ・ビュー』への広告掲載は、本件学校の生徒募集が目的であったところ、平成一〇年七月五日の本件学校の開校日の前後には、充分な数の生徒が集まっていたのであるから、被告としては、広告を依頼するはずがなく、同1(四)(3)(本件契約一の七月分)、同1(四)(4)(本件契約一の八月分)は、認められないと主張する。

たしかに、乙一〇号証、弁論の全趣旨によれば、平成一〇年七月一日発行の同1(四)(3)(本件契約一の七月分)の原稿締切は、平成一〇年六月四日であり、その前日までの時点で、二二四人の応募者がオーディションを受けたと認められ、被告は、本件学校の第一期生として一五〇人程度の入学を予定していたというのであるから、この時点で、被告が、広告掲載の継続を必要ではないと考えていた可能性はある。

しかし、乙一二号証によれば、半年後には第二期生を募集するのであり、また、体験入学の募集は継続していたことから、広告掲載の意味がなかったとまではいえず、被告も、『月刊デ・ビュー』九月号への広告掲載は意味がないことはないとの認識を有していたことが認められるから、平成一〇年七月五日の本件学校の開校日の前後に充分な数の生徒が集まっていたことから直ちに、平成一〇年六月四日以前に、被告から掲載中止の申し入れがあったことを推認することはできないのである。

また、被告は、一年ないし三ヶ月間の広告掲載を約束したことはない旨主張するが、前記認定事実によれば、広告掲載に際しては、毎回、双方担当者が打ち合わせをしていたのであるから、右主張は認められないというほかない。

(四)  以上によれば、請求原因1(四)(3)・同1(四)(4)の事実を認めることができる。

3  請求原因2(四)(2)④・請求原因2(四)(3)について

(一)  ①原告ビジネス・ジャパンによる掲載の手続によって、本件学校の広告二二九〇枚が、平成一〇年五月二三日ないし同年同月三〇日(八日間)に、中央線快速(総武線、青梅線、五日市線、京葉線、武蔵野線を含む)に車内窓上広告として掲載されたこと、その代金が一五三万八〇〇〇円(消費税別)であること、②原告ビジネス・ジャパンが、平成一〇年六月九日、代金二三万八〇〇〇円(消費税別)で、ポスター五六〇〇枚を制作したこと、③原告ビジネス・ジャパンによる掲載の手続によって、本件学校の広告五六〇〇枚が、平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)に京浜東北線、南武線、横浜線(鶴見線、相模原線を含む)に車内広告として掲載されたこと、その代金が三一万三〇〇〇円(消費税別)であること、④同じく、五六〇〇枚が平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)に山手線、埼京線、常盤線、八高線に車内広告として掲載されたこと、その代金が七七万八〇〇〇円(消費税別)であること、⑤同じく五六〇〇枚が平成一〇年六月一二日ないし同年同月一五日(四日間)に中央線、総武線、青梅線、京葉線、武蔵野線に車内広告として掲載されたこと、その代金が七六万九〇〇〇円(消費税別)であることについては当事者間に争いがない。

(二)  右争いのない事実に、甲一二号証、甲一八号証、乙一〇号証ないし一二号証及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

車内広告においては、岸本は、被告から、直接、「いつ、どの路線に、何日間、広告を掲載するか」について具体的な指定を受けて、手続をしていた。

被告は、原告ビジネス・ジャパンの手続により、平成一〇年四月二八日ないし同年五月六日のうち八日間(この点、甲八号証には、「平成一〇年四月二八日から同年五月六日」と記載され、九日間であるかのようであるが、八日間であることにつき当事者間に争いはない。)山手線他に車内広告を掲載し、これにより多数の応募者が本件学校のオーディションを受けにきた。そして、本件学校は、平成一〇年七月五日に開校した。

(三)  これらの事実によると、平成一〇年四月二八日から同年五月六日まで山手線などで行った車内広告の成果が顕著であったことから、同様の効果を意図した被告が、同年七月五日の開校を備えて、今度は、中央線で八日間の車内広告を行おうと考えたことが推認できる。被告が、原告ビジネス・ジャパンに対し、同時期に山手線などにおいて四日間の車内広告を注文したことは争いがないが、新しい対象を求めて中央線に八日間の広告を行おうとしたものと推認することもできるから、このことがあるからといって、前記推認をを妨げるものとはいえない。

また、本件契約二の六月分債務については、京浜東北線・南武線・横浜線という特殊な路線での広告掲載を含んでいるのであるから、特段の事情のない限り、注文者の指定がないまま、原告ビジネス・ジャパンにおいて勝手に掲載したものとは推認することは困難であり、また、本件においては、(四)で述べるほか、特段の事情の存在をうかがわせるに足りる証拠はない。

したがって、本件契約二の六月分債務についても、被告の注文があったと認めるのが相当である。

(四)  これに対し、被告は、車内広告の原稿締切日の六月七日には、すでに十分な数の生徒が集まっていたのであるから、広告する必要がなく、また、被告の、当初の広告費予算である四〇〇万円から五〇〇万円は、すでに超えていたのであるから、広告を依頼するはずがない旨主張する。

しかし、前記認定のとおり、被告及び本件学校にとっては、第一期生の生徒募集のほかにも、第二期生の生徒募集・体験入学の募集など広告の必要性がないとはいえないから、このこと一事をもって被告が、広告をするはずはないということはできない。また、すでに第一期生の入学金等が入金されていたのであり、当初の広告予算が絶対のものとして維持されているとも必ずしもいえないと解される。したがって、いずれにしても、これらによって、右認定を覆すものとは認められない。

(五)  以上によれば、請求原因2(四)(2)④・請求原因2(四)(3)の事実を認めることができる。

4  したがって、請求原因1、同2の事実が全部認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  弁済充当(抗弁)について

1  被告が、原告進広社ないし原告ビジネス・ジャパンに対し、①平成一〇年五月二九日に五〇万円、②同年六月一〇日に一三五万一一五〇円、③同年七月二日に五七万円、④同年七月一三日に一五〇万円、⑤同年七月二四日に一〇〇万円をそれぞれ弁済したこと、③の弁済及び④の弁済は本件契約二の五月分債務に充当されることについては、当事者間に争いがない。

2 ところで、債務者が、複数の債権者に対して、それぞれ複数の債務を負っており、かつ、各債権者の弁済受領権者が同一であるなどの事情がある場合には、債務者の弁済の充当につき、民法四八八条の規定を類推適用すべきものと解される。そうすると、本件においては、被告が、複数の債権者である原告らに対し、それぞれ複数の債権を負っており、かつ、原告らの弁済受領権者がともに岸本であるのであるから、争いがある前記①、②及び⑤の弁済の充当については、同条の規定を類推して判断すべきであり、被告は給付のときにおいて、その弁済を充当すべき債務を指定することができることになる。

(一)  平成一〇年五月二九日の弁済について

被告が、平成一〇年五月二九日、五〇万円を、原告進広社及び原告ビジネス・ジャパン方に持参して弁済する際(この点については争いがない。)、充当すべき債務を指定したと認めるに足りる証拠はない。かえって、原告進広社及び原告ビジネス・ジャパンの弁済受領権者は、これを原告進広社が被告に対して有する本件契約一の四月分債務(七〇万三五〇〇円、甲七号証)に充当するべきことを、原告進広社名義の領収書(乙一号証)を発行することにより示したと認められ、これに対して、被告が直ちに異議を述べたと認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告は、原告進広社に対し、平成一〇年五月二九日、本件契約一の四月分債務(七〇万三五〇〇円)の一部として、五〇万円を弁済したというべきである。

(二)  平成一〇年六月一〇日の弁済(抗弁1)について

被告は、平成一〇年六月一〇日、一三五万一一五〇円を、原告進広社及び原告ビジネス・ジャパン方に持参して弁済する際(この点については争いがない。)にも、右と同様であり、原告進広社名義の領収書(乙二号証)が交付されていることからすれば、一三五万一一五〇円全額が原告進広社に対して支払われたことになりそうである。しかし、弁済額一三五万一一五〇円は、本件契約一の四月分債務残額(二〇万三五〇〇円)と本件契約二の四月分債務(一一四万七六五〇円、甲八号証)の合計額と一致し、当事者双方において、平成一〇年五月二九日の弁済額五〇万円とあわせて本件契約一の四月分債務及び本件契約二の四月分債務に充当する点では、争いがない。また、原告ビジネス・ジャパンは、原告進広社と同一の岸本が代表取締役であり、従業員は岸本以外に存在しない会社であって、両者は密接に関連し、両者の発行する請求書の形式も類似しているのであるから、便宜上、原告進広社に対する弁済分と原告ビジネス・ジャパンに対する弁済分を明確に区別することなく、領収書を交付することも不自然ではない。

したがって、被告は、原告進広社に対し、平成一〇年六月一〇日、本件契約一の四月分債務(残債務二〇万三五〇〇円)として、その全額である二〇万三五〇〇円を弁済し、原告ビジネス・ジャパンに対し、同日、本件契約二の四月分債務(一一四万七六五〇円)として、その全額である一一四万七六五〇円を弁済したものとみることが相当である。

(三)  平成一〇年七月二日、同月一三日の弁済について

被告は、原告ビジネス・ジャパンに対し、本件契約二の五月分債務(三七五万〇六〇〇円)の一部として、平成一〇年七月二日に五七万円、平成一〇年七月一三日に一五〇万円を弁済した(争いがない)。

(四)  平成一〇年七月二四日の弁済(抗弁2)について

乙五号証によれば、被告は、平成一〇年七月二四日、一〇〇万円を銀行振込の方法で弁済し、その際、振込先を「あさひ銀行新宿西口支店当座預金口座〇四二七五二一・(株)シンコウシャ」と指定したと認められ、そうすると、一〇〇万円全額につき、進広社に対する本件契約一に基づく債務を充当債務として指定したようにもうかがえる。しかしながら、内八七万三一五〇円については、本件契約二の五月分債務に充当することにつき、その限度において当事者間に争いがなく(原告は、一〇〇万円すべてが原告ビジネス・ジャパンに対する本件契約二の五月分債務に充当されるべきものであると主張し、被告は一〇〇万円のうち八七万三一五〇円が右債務に充当されるべきものであると主張するところ、重なり合う八七万三一五〇円は、右債務に充当されるべきであることにつき、当事者間に争いがないことになる。)、この点は、当裁判所の判断を拘束するものである。そうすると、一〇〇万円のうち、八七万三一五〇円については、原告ビジネス・ジャパンに対する本件契約二の五月分債務に充当され、残額の一二万六八五〇円については、事柄の性質上、進広社に対する本件契約一に基づく債務に充当しているものとみるのが相当である。

したがって、被告は、原告進広社に対し、平成一〇年七月二四日、本件契約一の六月分債務(四九万九八〇〇円)の一部として、一二万六八五〇円を弁済し、原告ビジネス・ジャパンに対し、同日、本件契約二の五月分債務(残額一六八万〇六〇〇円)の一部として、八七万三一五〇円を弁済したことになる。

3  以上によると、抗弁1は理由がないが、抗弁2は理由があることになる。

そうすると、原告進広社が被告に対して有する残債務は、一三七万二五五〇円(本件契約一の六月分残債務三七万二九五〇円、本件契約一の七月分債務・八月分債務各四九万九八〇〇円)であり、原告ビジネス・ジャパンが被告に対して有する残債務は、三〇一万〇三五〇円(本件契約二の五月分債務残額八〇万七四五〇円、本件契約二の六月分債務二二〇万二九〇〇円)であることになる。

四  以上によれば、原告進広社の請求のうち一三七万二五五〇円については理由があるからこれを認容し、その余の請求は棄却し、原告ビジネス・ジャパンの請求は残債権の一部の請求として理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担について民訴法六四条ただし書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官・加藤新太郎)

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